Doctors Journal Vol.8
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23遺伝子検査のこれまでの軌跡と今後の展望を用いた薬事承認検査であったと思います。抗生物質が殆ど効かないMRSA感染症は日本で1980年代後半に院内感染による死者が増加し大きな社会問題 となりました。ブドウ球菌がmecAと言う遺伝子を獲得すると、この遺伝子が作るPBP2’蛋白の作用でペニシリンなどのβラクタム系薬剤が効かなくなることが分かりました。mecA遺伝子検査は、医療現場ではごく日常的に検出される黄色ブドウ球菌にmecA遺伝子が存在するかを検査するために開発されました。この検査薬は私が所属しているロシュ・ダイアグノスティックス株式会社(当時は日本ロシュ株式会社)が、PCR法の特許を所有していた関係から国内での販売権を取得し、私自身が担当責任者となって販売活動を展開しました。 残念ながら既に日本の医療機関で検出される黄色ブドウ球菌の大半がmecA遺伝子を獲得したMRSAとなっていたこともあって、この検査試薬は思ったほど売れませんでした。しかし、一般細菌を対象とした最先端技術(PCR法)を用いた検査の実用化は、病院の検査室の検査技師さんに大きな刺激を与える機会となり、特に感染症の検査室を活性化する光として遺伝子検査はその後注目されるようになります。【遺伝子検査が医薬品を進化させた:日本の医療現場が生んだC型肝炎治療戦略】 遺伝子検査が日常診療の中で普及するようになったのは、1994年にロシュ社が日本で発売したPCR法によるクラミジア・トラコマチス検査と結核菌群及び非定型抗酸菌群検査からでした(表1)。特に結核菌のPCR法検査は迅速な確定診断に繋がるため、罹患者数が減らない日本での感染者の減少に貢献することになります(図1)。また、1995年に保険適用されたHCV RNA検査は、その後のC型肝炎治療の流れを大きく変える非常に重要な検査になりました。 原因ウイルスが不明であった非A非B型血清肝炎の原因であるC型肝炎ウイルス(HCV)が米国の研究者によって発見されたのは1989年でした。HCVはRNAウイルスであることが分かり、逆転写酵素を組み合わせたPCR法を利用することで、血液中のHCVを正確かつ簡単に測定<表1>日本における主な遺伝子検査項目の保険適用時期年199219941995199719982000200120062007200820092012 感染症関連mecA遺伝子クラミジアトラコマチス、結核菌、非定型抗酸菌、HCV RNA定性HCV RNA定量検査淋菌、HIV RNA定量HBV DNA定量HPV DNA 悪性腫瘍関連BCR-ABL(白血病)HER-2 FISH(乳がん)WT1mRNA(白血病)EGFR遺伝子(肺がん)、KRAS遺伝子(膵がん、大腸がん)CK19mRNA(乳がん),UDPグルクロン酸転移酵素(大腸がん)ALK融合遺伝子(肺がん)<図1>日本の結核罹患率の変化と遺伝子検査導入の効果1999年の緊急事態宣言によりPCR法結核菌検査が普及し罹患率の低下を促した 19.4 698.4 55.9 33.7 17.7 2011年1951101001000198119962008新規登録患者数対人口100万人(対数表示)結核菌の罹患率は1977年を境に減少傾向が鈍化1999年結核緊急事態宣言1994年10月にPCR法の結核菌検査が保険適用1998年6月自動測定装置用のキットが発売1997年には遂に、結核新登録患者が逆転上昇し3年連続して増加検査体制充実のための特別予算が執行され、旧国療、大学病院等への結核菌PCR検査導入が加速(350施設)
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