ドクタージャーナルVol.17
10/48
10DoctorsJournalようになるケースも珍しくありません。患者さんが症状を訴えるたびに薬が増える。医師も専門領域でない薬の副作用には気付きにくいということがあります。また、高齢者には注意が必要な薬も種々ありますが、慎重投与すべき薬が安易に出されていたり、分量が多すぎたりするケースも多くあります。特に睡眠薬には注意が必要です。効果が切れるとき、意識混濁や幻覚が出やすい傾向が高齢者にはあります。眠れないのには必ず原因があります。認知症と診断されたことによる不安とか、家族との関係が良好でないとか。まずご本人から話を聞いて眠れない原因を探り、カウンセリングをしながら対処していくこと(睡眠衛生指導)が必要なのです。抗認知症薬の服用はできるだけ早期のタイミングが望ましいですが、多剤服用による症状がみられる場合は、薬剤をできるだけ整理して症状が安定してきてから抗認知症薬を始め、継続することで認知症の症状が安定化していく傾向が多くあります。多剤服用の状況から、症状を薬でコントロールすることは困難を極めるため、時には処方内容の見直しも視野に入れます。特にレビー小体型認知症は向精神薬などに対する過敏性がありますので注意が必要です。処方の見直しや薬を減らした直後は注意深い観察を要します。在宅医療の現場では、家族や介護者の協力と共に医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、ヘルパーなどを含めた多職種での「チーム・モニタリング」による協働が必要です。―髙瀬義昌氏の在宅認知症高齢者の実例として、1日に15種類27錠を処方されていた80歳の認知症高齢者を、5種類7錠に変更したところ、数日後には歩けるようになり、夜もぐっすり眠れるようになった。せん妄や徘徊もなくなり、それまで激しかった暴言や暴力などの認知症の周辺症状(BPSD)だと思われていた行為も治まって、デイサービスにも通えるようになったという。その高齢者は50歳代からの慢性疾患もあって、ペインクリニック、内科、精神科、整形外科などと、その都度診療科が増えるたびに薬も増えていった結果、計15種類の薬を処方されていたという。しかも驚くことに、それらの薬剤を1か所の調剤薬局で受けていたという。薬を減らした結果は症状の改善だけでなく、1日分の薬価差額704円、年間では約26万円もの医療費の節約にもなったという。髙瀬義昌氏によるこの事例は国会議員も取り上げて大きく話題になった。―在宅診療の卒業式私たちは、在宅の患者さんで一人では歩けなかったり食事ができなかった方が自分でできるようになった時には、在宅診療の卒業式をしています。式では患者さんを表彰しお花を贈呈して、在宅医療からの卒業を称えます。こんな事をしているのは極めて珍しいのではないでしょうか。私どもでは在宅医療の在り方を示す時代のモデルルームでありたいと思っているのです。医療者として、特にプライマリ・ケアでは、患者さんに行動変容を起こしていくのが本当のプロの仕事だと思います。患者さんの行動変容や認知の変容ができなかったら、それは医療側の力量不足にあると考えるべきで、医療者は常にカウンセリングとコーチングのクオリティをブラッシュアップしなければならないと
元のページ