ドクタージャーナルVol.17
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11DoctorsJournal思っています。支援の本質とは何か日本のキャリア研究の第一人者で、神戸大学大学院の金井壽宏教授が監訳された本で、エドガー・H・シャインの「HELPING」(邦題『人を助けるとはどういうことか本当の「協力関係」をつくる7つの原則』があります。エドガー・H・シャインは、組織心理学者として世界的に高名なマサチューセッツ工科大学の名誉教授です。組織行動論におけるクリニカル・アプローチやプロセス・コンサルテーションを考案した組織論の第一人者です。私が尊敬する学者の一人で、2011年には渡米してご本人と面会しました。エドガー・H・シャインは「HELPING」の中で、「相手のためになりたいと思って接するのに、それが意外と難しいことに気付かされることが多い。親切が仇になることもよくあるが、それは、助けを求める側が助言に耳を傾けないから生じることもあろう。だが、助ける側が、相手の要望に耳を傾けることなしに、頭ごなしに答えめいたものを押し付けているせいであることも多い。」と援助の本質とは何かを「支援学」として解説しています。援助の本質とは、何でも全部してあげることではありません。在宅医療における支援の在り方の答えがここにあるように思います。まずこのことを、医療を提供する側が理解していなければなりません。在宅医療はレスキューシステムです。厚生労働省の新オレンジプランの中で、2025年には認知症の人が700万人になると言われています。そうなると地域包括ケアはマンパワー不足などで、そこから漏れ落ちてしまう人たちが沢山出てくると予想されます。病院では対応しきれません。その人たちのレスキューシステムこそが在宅医療だと思っています。在宅医療に取り組んでいる医師はキャッチャーボートのようなものです。地域の医療現場で見ているから在宅医にはいろいろな患者さんの情報が入ってきます。それに対していち早く対応し、患者さんを地域の中で見守ります。当然リスクもありますから緊急時には安全に病院に繋ぐなど、いわば懐深い病診連携が大切です。しかし対応できる病院が少なくなっているのが現状と言えます。これでは、キャッチャーボートがあっても母船がないのと同じです。システム・スタビライザーが私の役割在宅医療や地域包括ケアが上手く機能するためには、そのシステムを安定化させるためのカギがどこにあるのかを探り、どのスイッチを押せば時間と費用の効率化が図れ、最大限の効果を生み出すことができるかを考え実行する役割が必要です。それを私はシステム・スタビライザーと名付けています。私の役割とはまさにそのシステム・スタビライザーだと思っています。そして最大限の効果を生み出すカギはチームワークやネットワーク、フットワークというキーワードにあり、それらをシステムの中で効率よく動かしてゆくことが、今の私の仕事の面白さでもあります。ホメオスタシスとか恒常性維持というように、人間の体はいろいろな機能を持ったそれぞれの異なるパーツが無駄なく集まり一個の総体となって効率よく機能的に生体の状態が保たれています。そのことを社会にも投影してみたら、同じことが言えるのではないでしょうか。世の中も一つの生き物と考えられます。地域包括ケアも、厚生労働省、医師会という組織も一つの生き物といえる。それぞれにシステム・スタビライザーは必要だと思います。在宅療養空間というシステムを如何に安定化させるか地域のシステム・スタビライザーを自称する私にとって、在宅療養空間というシステムを如何に安定化させるかが重要なテーマです。そのためには在宅療養の継続を阻害する種々のリスクを明確にし、それに対してのリスクマネジメントのプログラムを作り、参加する人たちが各々の役割を果たしてゆくという、全体がサイコドラマのような形で、トータルで在宅療養空間が安定して継続できるような仕組みをデザインすることが重要だと考えています。と同時に、在宅医療空間が破たんする時があります。在宅の患者さんが、せん妄が起きたり骨折したり、肺炎などの感染症になったり合併症を起こしたりした場合です。これは認知■髙瀬 義昌氏 医療法人社団 至髙会 たかせクリニック 院長
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