ドクタージャーナルVol.17
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9DoctorsJournal在宅医療クリニックを開業し、認知症は避けて通れないことに気付く。その後、東京都荒川区の病院で院長をしていた時に、在宅医療と出会いました。そこでは外来に加えて往診も行っていましたので、ある高齢者の方の在宅医療を行い、私は生涯で初めて患者さんの看取りも経験しました(北島康介君の祖父!)。そのご高齢の患者さんは、ご家族の手厚い介護で最後まで大切にされ穏やかなご臨終を迎えられました。元来、小児科医療に携わっていた頃から、患者と家族の関係が病状に反映することには注目していましたが、この看取りで医療と家族との良好なチームワークを経験した私は、在宅医療への思いがますます募りました。在宅医療は、継続的に生きる意味や生きる在り方とか、あるいは死ぬということの意味を私に問いかけてきます。2004年9月に、大田区の現在の地で在宅医療中心の「たかせクリニック」を開業しました。元々家族療法による診療を志向していた私には、一人の診察に時間を取れる在宅医療が向いていると思っていましたし、外来クリニックの場合、患者さんが増えてくると診療時間を十分に取れなくなることもあり、外来と在宅医療を両立させるのは難しいと考えたからです。また、近隣には高校時代の友人達の病院が幾つかあって、在宅における病診連携のバックベッドの確保が見込めたことも大きな理由です。大田区は、高額所得者が多く住んでいる田園調布から、生活保護の人が多い蒲田地区まで住民の経済格差の大きい区で、ここでは日本の縮図のようなものが見られるかもしれないと思いました。開業当時は、大田区で在宅医療に取り組んでいる医師はまだ少なかったですね。在宅診療を始めてみると、患者さんに認知症の高齢者の方が非常に多いことに気付きました。更にはその患者さんを支える家族にうつ状態の方が多い。診療を続けていくうちに、在宅医療では認知症は避けて通れないことに気付いたのです。在宅医療のキーワードは、「フットワーク」「チームワーク」「ネットワーク」です。それに、現場をきちっと見る目配りの「アリの目」、木を見て森を見ないことにならないように客観視する「トリの目」、それと魚眼レンズのように広角視野で見る「サカナの目」の3つの目が必要です。薬を整理することで症状をコントロールする在宅医療では、薬(医療)が2割、ケア(介護)が8割というのが、私の持論です。薬を整理し、時には減らすことで高齢者の生活の質(QOL)と身体機能が上がる経験を何度もしました。歩けなかった人が歩く■髙瀬 義昌氏 医療法人社団 至髙会 たかせクリニック 院長
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