ドクタージャーナル20号
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11DoctorsJournalより重要と考えています。エビデンスは絶対ではない。医療にとってエビデンスは重要です。それは間違いなく正しい。特に認知症の臨床現場では、あまりにもエビデンス通りの画一的な治療が多いように思われます。しかしそのためにいろいろな問題が生じています。確かにエビデンス通りにやると、7割位はうまくいきます。しかしエビデンスというのは多人数における確率値でしかないので、当然外れる人が出てきます。外れていてもその通りにやらなくてはいけないというのが今のエビデンス医療の問題点なのです。エビデンスはあくまでも確率です。これが一番確率の高い治療法ということです。アメリカでは、確率が高い治療法から順番に試していきながら、本人に一番合ったものを見つけるという考え方ですが、日本では確率の高い治療法が絶対という考え方が強いです。エビデンスを唯一絶対と信奉し、エビデンスに沿った医療を患者さんに強制する医師も多くいます。医療の現場で医師の目の前にいるのは一人の患者さんです。その人にとっては、エビデンスという集団をベースにした治療法が有効か無効かいずれかです。集団で70%の人に効果があっても、その患者さんには当てはまらないこともあります。そうなると個別にその人に合った治療法を見つけていかなければならない。認知症治療の現場では試行錯誤の繰り返しです。私は臨床で積み重ねて来た数多くの経験を基に、認知症の患者さんの様々な状況に応じて、そのつどエビデンスに捉われず最適と思われる治療を考え行ってきました。エビデンスを基本としますが、そこに経験が加わることで、良い結果を得られる確率が上がるのです。薬効には個人差が必ずあります。特に認知症の治療薬に関しては最低投与量まで決められています。例えばドネペジルは5mg以上と決められています。しかし経験上、5mg以下の少量投与でもよく効く人や、副作用も出ず怒りっぽくならないでうまくいく人がいます。でもその人たちは全体の中では一部なので、そのエビデンスを作れといっても不可能です。理論的に考えれば当然のことで、薬剤の感受性には必ず個人差があります。体重が80kgの人もいれば30kgの人もいます。勿論、血中濃度も変わってきます。そういうことは無視して、一律に、5mgだと効くというエビデンスがあるが、3mgだと統計学的有意差が無いから5mgを使わなければだめだ、というのがエビデンスの論法です。例えば、酒の適量には個人差がありますが、「酩酊するにはお酒を5合飲ませてください。3合ではだめです。酩酊するためには必ず5合飲ませてください。」という規定です。私は、それはおかしいと思います。また、規定の5mgでも1割位の人が、イライラして怒りっぽくなってきます。それは副作用と考えるのではなくて、薬の効き過ぎ症状と考えるべきなのです。効き過ぎ作用であれば量を減らせばよいのです。以前から厚生労働省に働きかけた結果、ようやく2016年6月に、添付文書に示された規定量以下でも医学的な根拠があれば認めるという通達が出てドネペジルの長期少量処方が容認されました。エビデンス至上という価値観から抜け出せない医師。エビデンス至上の典型的な医師は、診察で画像を見て海馬が萎縮しているとか、VSRAD(前駆期を含む早期アルツハイマー型認知症の診断を支援するためのソフト)の値が2だとかでアルツハイマー型認知症と診断すると、ドネペジル5mgを処方し、その後も頑なに変えようとはしない。例えば、ドネペジルを使っていて怒りっぽくなっているアルツハイマー型認知症の患者さんがいるとします。A医師はドネペジルに加えて抑肝散を併用します。確かに少し穏やかになります。B医師はドネペジルに加えて抗精神病薬を処方します。C医師はドネペジルを一時止めてみて、その間の症状を見ます。それで穏やかになれば、その後はドネペジルの処方量を少なく調整します。私はC医師を支持します。この場合、A医師とB医師は患者さんの症状は見ていますが、アルツハイマー型認知症にはドネペジルは絶対に必要な薬だというエビデンス■認知症の最前線で活躍するドクター

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